<   2007年 03月 ( 1 )   > この月の画像一覧

手紙

d0015174_12294113.jpg


田頭喜久彌さま

「マエストロ小船幸次郎」。ご本ありがとうございました。読んでいるうちに私の記憶が次々と蘇って来ました。

元町小学校を右手に見て左の車一台入る事が出来る坂道を登って行くと左手に小船先生のお家があった、その坂道をとぼとぼと登って行く。その坂道は先生の世界の入口でした。
今でも時々はあの坂道をを登る時がありますが、私は「巻き戻し時間」の世界に入っています。空色の愛車「ターナス」一階の「リビング」幸次郎先生の「NISHIKAWA」のアップライトピアノがあった書斎。冬にはブルーの火が燃える「ブルーフレーム石油ストーブ」あの場所には静かな時間が流れていました。

ご本を読んでから私が思い出したことや、私自身の事について文を書いてみました。田頭喜久彌様の追記として小船幸次郎先生と照子先生のことを知る文になるかもしれない。

小船幸次郎先生は音楽の上では厳しかったが個人的には優し過ぎた。それが私にはかえって辛く先生から離れる原因になりました。

こんな事がありました。私が小船照子先生のギターのお稽古にも行かなくなり、東京アカデミーにも行かなくなった頃、先生から直接お手紙を戴き「分からないことがあったら横響の定期演奏会の時楽屋に楽譜を持って来なさい」と書かれてあった。涙が出た、嬉しかった、でも私はそうはしなかった。

この本の年譜によると「東京ギターアカデミー」は1959年に設立され1969年に終わった。1969年に全音楽譜出版社から「ギターの楽典」が発刊されている。1965年に「演奏者のためのギター和声学」が全音楽譜出版社から発刊されている。1960年には東京ギターアカデミー学生演奏会がヤマハホールで開けれている。私も出演した。

これからは私の想像であるが1959年先生51才の時先生は先生を慕って集まって来た東京周辺で活躍するギターリストと相談して桐朋学園をモデルとした「東京ギターアカデミー」を作った。

発足から10年で何故終わってしまったのか?噂は聞くが真実はわからない。終わった年に「ギターの楽典」が全音楽譜出版社から発刊されていることを考えると先生のギターに対する関心が消えたわけではない。とすると毎週一回東京まで出かけて行くのが大変になっのか、或いは学内の内部事情に嫌気がさしたと見るべきだろう。

この「マエストロ小船幸次郎」には載っていないが「東京ギターアカデミー学生演奏会」を名古屋で開いたことがあった。名古屋はギターの大先輩中野二郎さんの本拠地だった。会場一杯の観衆は東京ギターアカデミーに対する関心の表れであった。私も出演していた。

演奏会終了後の宿で東京から同行していたひとりの教授から教授達の中の問題点を聞かされた。「私は学生なのでそうした問題について無関係だ」と言いきった。

個人的な事だが、私は小船夫妻が仲人で結婚をした、たまたま結婚したいと言う話を師匠の照子先生にしたら「私たち夫婦がやりましょう。さすれば貴男の将来にきっと良い状況を作れる」と言われて渡りに船でお願いした。私の両親も相手の親も何も言えなかった。

その後、私は私の妻との不具合で悩んでいた。

一般に物事の推移は複数の原因がある。先生と顔を合わせれば家族の話が出ていたし先生を悲しませたく無かった。だんだん私はそうした個人的な事情や「東京ギターアカデミー」が重荷になって休むようになった。

そうした時先生から先のお手紙を戴いた。

私のギターの師匠小船照子先生は私の事をにがにがしく思ったに違いない。期待はずれの弟子。よく小船照子先生は「町のギターの先生になってはいけない」と私に警告をしていた。
しかし私は師匠の期待にはずれて「町のギターの先生になった。」しかし悔いはない。

1982年小船幸次郎先生は74才でお亡くなりになってまもなく私はギターリサイタルをした。小船幸次郎ギター作品「夜想曲」を弾いた。リサイタルの前、小船照子先生に挨拶とご指導を受けようと思って坂道を登った。照子先生は私の顔を見るなり気を許したのか、いきなり「うちの先生ったら自分の好きなことばかりして、さっさとあの世に行ってしまった。」とまくし立てられた。とても教えを乞う雰囲気ではないと坂道を肩を落として降った。これが照子先生との最後の会話になった。

思いだして見ると小船照子先生は面白い人だった。ご一緒に東京から夜分満員電車で横浜まで立って帰って来た時があったが、いきなりお笑いになるので、どうしたのですかと聞くと
「こんなに大勢の人が家に帰って、歯を磨いて寝る事を考えると…」と言われた。「う〜ん」。

田頭喜久彌さま本の反響はいかですか?
多くの小船幸次郎先生の業績をここで知ることが出来ました。このご本が過去から未来へと繋ぐ架け橋になったらどんなに良い事だと思います。
そのためには先生の作品集が出れば良いのにと思ってしまいます。ありがとう御座いました。

                                                                    2007年3月12日 小川 彰

小川 彰 公式ページ
http://www.mutsukawa-contact.co.jp/~ogawa/
[PR]
by akiraogawaG | 2007-03-12 12:43